大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和43年(ワ)8587号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕原告が本件事故当時建築請負業(個人企業)を営んでいたことは当事者間に争いがなく、<証拠>によれば原告は前記受傷によりその主張のとおり昭和四三年七月末日まで稼働不能であつたと認めるに充分である。

そこで、原告の右稼働不能による逸失利益について調べて見るに、原告と訴外有限会社竹内建設との間に納期の点をのぞき原告主張のとおりの契約が成立したが、右契約は昭和四三年一月一五日解除されたことは当事者間に争いがなく、<証拠>を総合すれば、右竹内建設との間の契約によつて定められた納期は同年三月二〇日であり、原告が右工事を完成させた場合の利益は金三〇万円を下るものではなかつたこと、および訴外秋本一男との間に原告主張のとおりの請負契約が成立したことが認められる。<証拠判断・略>。

しかしながら、<証拠>によれば、原告の竹内建設との間の前記契約に基づく工事は、昭和四二年度中においては、ほぼ順調に進行していたものの、竹内建設の原告に対しての支払は、すでに原告がした現実の工事高に対してすくなくとも五〇万円は過払となつていた事実が認められ、したがつて原告において約旨にしたがい工事を完成したとしても、そのことによつて、あらたな利益を見こめるような状態ではなかつたばかりでなく、<証拠>を総合すれば、原告の経営にかかる前記の建築請負業の経営内容は、昭和四二年八月ころからとみに悪化し、その下職人に対する支払すら滞りがちであつて、なかには全く支払を受けられない者も生ずる状態であり、ことに本件事故前の同年一二月に入つてからは、自己資金による支払手形の決済すらできない仕末で、ついに同月一四日には下職人の一人である訴外高橋博から未払賃金の支払いとあわせ、同月二五日には返済すべき旨を確約して金五〇万円を借り受けて急場をしのいだが、結局、仕入先あてに振り出した満期日を同年末とする額面金二〇万円の約束手形の決済ができず、そのため昭和四三年一月三一日には手形の不渡処分を受けるにいたつたこと(右日に原告が手形の不渡処分を受けたことは当事者間に争いがない。)、竹内建設との契約にかかる前記工事は訴外工藤某を現場監督として派遣し工事に当らせていたのであるが、原告は、本件事故後の昭和四三年一月七日ころには、喫茶店において被告と面接折衝しながらも、本件受傷の事実を昭和四三年一月一〇日まで右竹内建設には連絡もしなかつたため、ついに右工藤もいつとはなくその職場に姿を見せないようになり、竹内建設との契約による工事も自然中止の状態になつたこと、以上の事実が認められる。<証拠判断・略>この事実によつて考えて見ると、原告に対する下職人の信用の大半は、すでに本件事故前において失われ、かてて加えて資金の欠乏により本件事故の有無にかかわらず倒産・不渡処分の憂目を見ざるを得ない立場に置かれていたのではないかとの疑いが濃く、また、原告が本件事故に遭遇しなかつたと仮定しても右の理由により前記訴外秋本との契約による工事を遂行完成する能力は、本件事故当時すでになかつたのではないかとの疑いをぬぐい去ることができないのであつて、結局、右両工事の完成により原告がその主張するとおりの利益を挙げ得たとする充分な心証は得られない。<証拠判断・略>

以上のとおりであつて、原告主張のとおりの得べかりし利益を認定することはできないのであるが、いうまでもなく傷害事故における損害は、傷害それ自体であり、したがつてそれは、傷害により喪失した労働能力を端的に評価算定すべきであるところ、<証拠>によれば、原告は本件事故前の昭和四二年度事業所得として合計金四五万二八八〇円の申告をしていることが認められ、これと原告職業並びに<証拠>によつて認められる年令を合わせ考えると、原告の労働能力は、原告の前記認定の倒産の有無を問わずすくなくとも右の程度の年収(月平均金三万七七四〇円)を挙げ得るものと評価することが可能であるから、これに基づき原告の前記休業期間七ケ月の逸失利益を算定すれば、その合計は金二六万四一八〇円となる。(原島克己)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!